【平成12年 静岡県獣医師会 会報第25号掲載】
駿東獣医師会 シンポジウム実行委員長 樋渡 敬介(御殿場インター動物病院)
静岡県東部は東海地震の警戒域ですが、災害時における動物救護体制について一般市民や行政及び獣医師会、それぞれの役割が明確にされていません。地震活動が何時発生してもおかしくない地域において、災害時における動物救護体制作りは急務であり、その体制設備には一刻も早く取り組む必要があります。
そこで今回、駿東獣医師会では「災害時における動物救護活動」についてのシンポジウムを去る3月16日(金)裾野市民文化センターにて開催しました。
シンポジウムでは、まず最初に(社)神戸市獣医師会 会長 市田成勝先生に「阪神淡路大震災時の動物救護活動について」講演していただき、震災発生時の状況をはじめ、動物救護センターが設立されるまでの経緯やセンター設立時の状況及び設立後の活動内容(救護受付事務や救護動物の飼育管理、獣医療)についてスライドを交え具体的にお話をしていただきました。
次に、シンポジウム参加者からのアンケートによる質問事項についてパネラーよるディスカッションを行いました。パネラーのみなさんは、次の6名の皆さんで実際に災害が発生した場合その対応の中心となる方々であり、そのご意見は大変参考になりました。
(社)神戸市獣医師会 会長 市田 成勝
(社)静岡県動物保護協会 常務理事兼事務局長 渥美 美喜雄
静岡県健康福祉部 環境衛生室動物保護管理係長 小泉 勝義
静岡県東部県行政センター 防災監兼副所長 矢萩 一雄
市民ボランティア 青木 佐登美
(社)駿東獣医師会 開業部会長 宮田 泰則
(敬称略)
今回シンポジウム参加者の最も関心があった事項は、避難所での動物への対応についてでした。参加者のアンケートによると、災害により避難生活をすることになった場合、「動物を自分と一緒に避難所に連れていく」または「避難場所以外の場所で自分で世話をする」と回答した参加者が80%を超えました。多くの飼主さんは「災害時もいっしょの所に避難したい」と考えているようです。一方、静岡県防災局で策定した「避難所運営マニュアル」の基本的な方向では、避難所の居室部分には、「原則としてペットの持ち込み禁止」とされています。したがって実際に避難する必要が生じた場合、飼主と行政の間でその対応に混乱が予測されるという大きな問題をかかえています。行政では避難所に余裕がある場合には避難所屋内での飼育が出来るよう対応するようですが、その時には、もちろん動物が嫌いな方の意見も尊重しなくてはなりません。したがって、避難所で動物を飼育する一定のルール作りはもちろんのこと、どのような状態で避難所内飼育が可能になるかの判断基準もあわせて検討しておく必要があると思いました。
次に、対応する窓口の問題にも関心がよせられました。市田先生のお話によると阪神淡路の震災時、多くの飼主は一番身近な動物救護施設として動物病院にその対応を求める声が多かったようです。行政側では動物救護センターを設けて対処していく方向ですが、人命優先を考慮すると動物への対応を迅速に進めるのには無理があるように思われます。この問題については市民や行政、動物保護協会及び獣医師会による具体的な話が必要ではないかと考えます。
次に飼主の災害時における飼主の動物救護に関する意識ですが、「災害を予測した対策をしていない」と答えた飼主が60%を超えています。また、対策を講じていると回答した飼主も「食糧」や「水」の確保に留まり、それ以外の動物への「名札の装着」や「ケージの確保」等といった大事な対策を講じている回答は10%程度の数値でした。これは、飼主の災害への対策意識が不足しているからではなく、シンポジウムでの飼主の大きな関心事でもあったように、災害時に「何を」「どうすればよいか分からない」というのが、飼主がかかえている問題だと考えられます。この問題に対して、獣医師会は行政や動物保護協会と協力して動物の災害時の具体的な救護対策について飼主の皆さんに積極的に伝えていかなければならないでしょう。
災害時に動物救護はどうするか?近年発生している阪神淡路大震災、有珠山噴火、三宅島噴火等の例を見ても、この問題については一般市民と行政および獣医師会が一体となって早急に取り組んでいかなければなりません。今回のシンポジウムでは、災害時に動物救護対策を具体的にどう実施するかといったことよりも、むしろ現時点で関係する方々が、それぞれの立場で動物救護のための問題点や原因を把握し、お互いに確認し合えたことに意味がありました。提示された問題は様々ですが、どの問題を取り上げてもその解決策には我々獣医師会が関連すると思います。現在すぐ取り組むことができる対策はもとより、他のテーマについても積極的に災害時の動物救護の具体策を関係者の方々と協力して実行していく事が急務と考える次第です。
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