院長コラム

2016/12/06 平成28年度 静岡県獣医臨床研究会 共同研究発表 11月
No. 32

テルミサルタン(ARB)がクッシング症候群様の犬に著効した3例

◯土井 公明1)、 5)、樋渡 敬介2)、 5)、水野 理介3)、 5)、横須賀 誠4)、 5)

1)どいペットクリニック(藤枝市)、2)御殿場インター動物病院(御殿場市)、3)つくば国際大学医療保健学部臨床検査学科、4)日獣大獣医学部獣医学科病態解析学分野、5)Japan Veterinary Microcirculation Research Center (JVMRC)

【はじめに】 これまでに我々は、サルコペニア・フレイルを呈する超高齢犬にテルミサルタンの投薬を行い、その治療効果を本会などに報告をしてきた。これらの治療症例の中にクッシング症候群を疑う個体を見出し、テルミサルタンの投薬により、発毛、体型、行動などに著しい臨床症状の改善を認めた症例を経験したので報告する。
【症例】 症例1マルチーズmix16歳、オス去勢済、体幹部を中心とした脱毛、腹部膨満、 頸部背側から肩にかけ膿瘍と浮腫を伴う皮膚炎、沈鬱を主訴に来院。テルミサルタン0.5mg/kgSIDで内服を開始、13病日皮膚炎浮腫の改善および行動改善、28病日発毛開始、150病日尾を除く体毛が生え揃った。180病日毛吹きもよく毛量も増加。投与後354病日まで生存し脱毛の再発を認めなかった。
症例2シーズー、12歳、オス未去勢、脱毛と部分的掻痒を主訴に来院。テルミサルタン0.5mg/kgSIDで内服、投与開始時、体幹部はほぼ無毛、30病日全身的に発毛が認められ、60病日体幹部頭部に全体的な発毛が認められた。
症例3シーズー、14歳、メス避妊済、皮膚炎、食欲不振を主訴に来院、全身性の薄毛、腹部膨満を認める。テルミサルタン0.5mg/kgSIDで、間欠的な投薬、投薬開始後8ヶ月後に全身的症状の改善と発毛を認め、11ヶ月後に外貌が正常化した。
【考察】 テルミサルタンは、アンジオテンシンII type1受容体拮抗薬(AT1 blocker)で猫の慢性腎不全治療薬として上市された。テルミサルタンは、AT1受容体拮抗作用のみならずペルオキシソーム増殖因子活性化リセプター(PPAR)γ活性化作用を合わせ持つユニークなAT1 blockerである。すなわち、テルミサルタンによるPPARγ活性化作用は、1)脂肪細胞からアディポネクチンを分泌させインスリン抵抗性の改善、2)肝臓や筋肉へのグルコース取り込みを増加、脂肪燃焼を促進、血糖を下げる作用を有している。今回報告した3症例は、クッシング症候群に似た臨床症状を呈しており、テルミサルタンの継続投与により、PPARγ活性化作用による著しい発毛や全身症状の改善が得られたと考察された。従って、テルミサルタンは超高齢犬のサルコペニア・フレイルだけでなく、クッシング症候群様を呈する症例に投与できる「やさしい」「高QOL」を提示する薬剤であると考えられる。

微小循環 microcirculation 犬 dog イヌ canine アンジオテンシン angiotensin ARB angiotensin receptor blocker テルミサルタン telmisartan セミントラ 超高齢ペット Glymphatic System PPARγ クッシング Cushing サルコペニアフレイル sarcopenia 

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