リナクロチドのイヌとネコ便秘症への効果検討とその適応性
樋渡 敬介(御殿場インター動物病院)
便秘症に対する治療は、ネコの巨大結腸症やイヌの前立腺肥大症においては、結腸の障害に伴って2次的に発症する疾患としておこなわれる。しかし、生活習慣病としての便秘症に対する積極的な薬物使用による予防や治療は、獣医療において未だ確立されていないのが現状である。
一方ヒトでは、国内外の疫学データや横断的な研究成果から、慢性便秘症は心疾患発症と関連性があることが示唆されており、近年、慢性便秘症は積極的に治療すべき「疾患」として認識されるようになってきている。特に、高齢者の便秘は、失禁とともにフレイルに関連するとも言われているので、本邦の超高齢社会において十分考慮する必要がある。 それに応えるように、近年いくつかの新しい薬理作用機序を持つ慢性便秘薬が上市され、慢性便秘治療はパラダイムシフトの様を呈している。
今回、我々は2016年に登場したリナクロチドをイヌとネコの便秘症に適応し、効果が認められたので報告する。
リナクロチドは、腸管粘膜に作用して腸管内への水分分泌を促進させ、便の軟化により排便を促進する。また、腎不全患者や透析患者にも投与可能で、内臓痛覚神経抑制作用があることから便秘型過敏性腸症候群にも適応を持つ薬剤である。
症例は2021年3月より2022年9月までに当院に来院し、診察時に便秘症状が確認できた78頭(イヌ51頭ネコ27頭)で、主訴16頭、2次的な兆候29頭、問診で確認できた33頭であった。
症状に応じて、リナクロチド0.13mg-0.25mgを、3日から3ヶ月の間、1日1回から5日1回服用させた。
リナクロチド投与により、主訴が原因とする便秘に対しては12頭、2次的な兆候では25頭、問診で確認できた症例では28頭において明らかに症状が改善され、13頭では変化が認められなかった。すなわち、慢性便秘症治療効果率は、83.3%(65/78)であった。
また、リナクロチドの副作用である下痢に関しては、全ての症例で認められなかった。副反応に関しては、ネコ1頭のみ、服用後短時間落ち着きのない状態になったと報告されたが、薬による作用であるかは不明であった。
これらの結果からリナクロチドは、イヌやネコにおいても有効な便秘薬であることが示唆された。 ただし、ネコ巨大結腸症などの腸の機能が高度麻痺している症例に対しては、一部効果が認められなかった。
最近、ネコの腎不全と便秘症の関連が明らかになってきており、今後は、臓器間の連関を視野に入れた病態の理解と予防・治療への複合的な取り組みも必要であろう。
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