院長コラム

2020/01/10 2019年12月 超高齢イヌ睡眠障害治療について 症例発表しました  日本語
No. 41

2019年12月 静岡県獣医師会 東部症例発表会で発表しました 日本語


高齢イヌの睡眠障害にオレキシン受容体拮抗薬を適応させた症例報告

○ 樋渡敬介(御殿場インター動物病院)

 近年ペットの高齢化が、社会的な話題になることがあるが、日本一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」の資料によると、10年前と比較して高齢化に顕著な変化はない。しかしながら、小動物臨床に携わる獣医師は、高齢ペットを診る機会が増えたと実感する。2018年度版アニコム白書によると、12歳(資料最高年齢)で契約しているイヌの頭数が、10年前の6倍超であることは、我々の実感を反映している可能性がある。また、このようなペットは飼育質の向上・動物医療の発展・生活環境の改善を経て、高齢になっている世代であることから、ある程度健康管理された状況から来院するので、ヒト医療の高齢化診療と同様に、サルコペニア・フレイルや認知症などを伴う、新世代高齢ペットが動物病院に来院していると考えられる。

 今回、そのような新世代高齢ペットのイヌで、飼主を悩ます大きな原因の一つの加齢に伴う睡眠障害に、新薬であるオレキシン受容体拮抗薬を適応したので報告する。
 オレキシン受容体拮抗薬(製薬名;ベルソムラ)は2014年にMSDより、日本の研究者によって発見・開発された新薬である。ベルソムラはオレキシン受容体への結合をブロックし、過剰に働いている覚醒システムを抑制することで、脳を生理的な覚醒状態から睡眠状態へ移行させ、本来の眠りをもたらすように作用する。

 症例は当院を来院し、飼主への負担が大きい、睡眠障害(夜鳴き、昼夜逆転、徘徊、呼吸障害など)を呈する、13-20歳の17例を対象に、ベルソムラ2-5mg/kgを1日1または2回投与した。また13例で、心疾患(8例)、腎疾患(8例)、糖尿病(3例)を併発しており<重複症例あり>、単独投与は4例であった。

 17例中14例で、飼主の満足する睡眠改善が得られ、3例で著しい効果が認められなかった。また、改善が認められた症例14例中7例が30日以内に服用を終了し、4例が症状の激しい時だけ一時的な服用へ減薬し、3例で継続的な服用を必要とした。効果の認められなかった3例中1例は、アンジオテンシン受容体拮抗薬の服用で効果が認められ、2例では、効果の認められる時と認められない時があった。

 小動物臨床でイヌの睡眠障害には、主にGABA受容体作動薬が使われているが、ふらつきや呼吸抑制などの副作用のため高齢イヌに対して積極的に適応できない場合もあり、飼主にも精神的負担を強いる。ベルソムラは、質の高い睡眠からの覚醒が比較的明瞭であり、高齢イヌであっても起床後の散歩を可能とする。従って、高齢イヌは、「寝たきり」の状態を防ぎ、かつ高齢イヌで併発しやすい心疾患や腎疾患に対しても、GABA受容体作動薬と比較すると、獣医療の立場からすると導入しやすい薬と考えられる。

 オレキシン受容体拮抗薬は、ヒトの睡眠障害として開発された新薬であり、獣医領域では適応情報が十分ではない。しかしながら、本症例で用いたベルソムラは、小動物臨床おいて有効性の高い睡眠障害改善薬と考えられる。新薬であるので、適応には飼主への十分なインフォームと慎重な投与が必要である。


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